以下の記事からその分野の熟練者であるウォルフガング・バウアーによる悪漢作成講座を開始する。去年、ウォルフガングはシナリオ作成講座で我々から盛大な賞賛を浴びて以降、君の冒険に取り込めるより良いデザイン要素に集中していた。
2006年を公式で竜の年と呼ぶならば、2007年に最も力強く――少なくとも重要なのは――悪人の年である。この年のオンライン製品情報を観れば、来月『Expedition to the Demonweb Pits』が出版され、『Drow of the Underdark』が後に続く。年内には、ロバート・シュワルブが『Exemplars of Evil』(9月)と『Elder Evils』(12月)をお届けし、君のキャンペーンに使える悪漢の例を示し、忘れがたい敵を作成して運用するこつを提供する。
これらの出版に先立ち、我々は悪漢についての話をする場が欲しかったため以下の集中連載を開始する。今週、ウォルフガングは悪徳の基礎理論。悪の心理についてと、なぜそれが君のゲームで気にかけなければならないかを解説する。来週、ふたつ目の記事では戦闘における悪漢について検討する。我々は君が連載を楽しむことを望む。いつものように、君の感想や意見は、dndfeedback@wizards.comで受け付けている。
まことに邪悪な悪漢はどんなゲームでも主役級だが、どんな悪漢も忠実な部下たちがいなければ脅威にはなりえない。彼の号令一下動き出すオークの軍隊や無数のフライング・モンキー、恐竜を駆るバーバリアンの軍団、からくり仕掛けの暗殺者たちなどは、悪漢に重厚さと権威を与える。孤独な悪漢でさえ、彼のために体の部品を取ってくるイゴール(訳註:フランケンシュタインものの映画などにしばしば登場する不気味な執事)や強力な使い魔、支配したデヴィルがついている。
君はどうすれば彼ら部下たちの価値を最大限に引き出せるだろうか？ この記事では、どんなシナリオでも部下たちを活躍させる簡単な手段を紹介する。僕は彼らを道具立てや弱点、裏切り者、見張り、スパイ、そして(最終的には)身代わりとして使うのが好みである。
部下たちの存在意義として重要なものは、頻繁に登場すること、そして(もっと重要なことは)彼らのあるじを目立たせることだ。まず、僕はひとりひとりは名も無き兵でも、何かに所属していると認識させることができるよう、部下たちに統一されたわかりやすい特徴をつけることを進める。すべてのオークが赤い炎の紋章を描いた鎧を着て戦ったり、ゾンビたちはあるウィザードのルーンが刻印されていたりというようにだ。このしるしを持つ者たちと1、2回も戦闘をすれば、パーティはそれを身に着けていれば敵と知ることができる。
部下たちを舞台装置として使うとき、そこに隠された真意はPCの《なぎ払い》や《なぎ払い強化》で刈り取られるにふさわしい、たくさんのオーク、呪文使いの徒弟たち、時計仕掛けの召使いたち、など無名の雑兵を大量に供給することである。彼らは大勢(少なくともふたり)で行動すべきだ。ある場所へ行こうとするパーティに障害を作成する時、いくつかの部屋には彼らが凄く大勢(50人以上)待機しているべきだ。これは悪漢の力と統率力を示すことができる。考えなしに50人の部下が待つ部屋に乱入する無謀なパーティは、悪漢のダンジョンでその幸運を使い果たすだろう(第1回『悪徳の基礎理論』参照)。
このような形で出現する部下たちは範囲に効果を及ぼす呪文の良いえじきとなる。しかし、これらの遭遇に余計な時間を費やすのは良くない。最後まできちんとやることより、1ラウンドで何人の部下が死ぬか計算し、彼らが逃げ出して戦闘がすぐに終わるように考えるべきである。パーティのレベルと部下の脅威度に充分な差があるなら、君は戦闘用の地図にひとりひとりのミニチュアを並べる必要すらないのである。
大量のスケルトンやゾンビを舞台装置として使うのも良いが、彼らの頭がもう少しよければ弱めの部下を生け捕りにし、情報を引き出すことで利用することができる(〈威圧〉や〈はったり〉が部下に対してカギになる技能だが、心術はより簡単に結果をもたらすだろう)。部下を生け捕りにすることによって起こりうる不都合な点は、彼らの命乞いにパーティが手をさしのべた場合、誰かが見張りとなる必要が出たり、戦闘的な遭遇が発生したときパーティに不利な動きをするなどの害をもたらすことだ。
これらの素早く簡単な解決法はPCがチャーム・パースンや類する呪文を使い、部下を彼らの側に引き入れてしまうことである。しかし、もっと狡猾な者がいないわけではなく、彼らは魅了されているふりをするだけの頭がある部下は隙をうかがって逃げ、PCの名前、特徴、そして計画をあるじに伝えるのである。
当然のことながら、首領である悪漢と英雄の中間で働く部下は諸刃の剣となる。側近は、たとえば“寝返り”(のふり)を目的としてパーティに接近し、しばしば悪漢の要塞への抜け道を案内すると言い出すかもしれない。彼は信用できるだろうか？ おそらくは。英雄は、彼に賭けてみようとする。手下はおそらく少しでも旗色が悪くなったらパーティを裏切るだろう。裏切りの最も効果的なかたちは？ 彼らを待ち伏せ位置に誘導するか、警報を鳴らすことである。
しかし本当にパーティへ幸運をもたらし、悪漢を裏切る部下というのはどうだろうか？ このようなキャラクターは彼らがすべての隠し扉、罠、そして悪漢のダンジョンや巣を熟知していることから、パーティの任務を非常に楽なものにできる。だが、悪属性の部下は彼が裏切るという危険を冒すために何かを求めるだろう。それは次のようなものかもしれない:
いくつかを満たせば、助けになるはずの部下は一転してやっかい者になるだろう。
部下は驚異的な戦闘員だが、彼らはたくさんのやかましい衛兵でもある。彼らは〈聞き耳〉と〈視認〉の判定を何度も行ない(英雄たちが隠密行動を心がければ簡単に通りすぎることができる)、パーティに気づけば、パニックに陥った部下は大声をあげるはずである。そしてこの点において、監視塔にいる部下は戦闘的な遭遇というよりは罠として扱うべきである。
パーティが隠密行動、わいろ、そして素早い殺しを仕損じた場合、部下に唯一求められる最重要の役割は警報を出すことである。そのため、大きな、大きな警報を鳴らす巨大な青銅の鐘や、ワンド・オヴ・シャウト、鉄のトライアングル、そしてらっぱなどが価値あるものとなる。警報は物によるものでなくてもよい。吠えたける犬の群れ、ライオンの遠吠え、ドラゴンの鳴き声なども銅鑼と同じ役目を果たす。
すべての部下が知力の低い人型生物や、アンデッドである必要はない。バードの悪漢は彼のために群衆を扇動するかもしれないし、ドルイドの悪漢は動物に命令をして彼の密偵や護衛にするかもしれない、ウィザードは召喚したモンスターを大量に蒐集しているかもしれない。
もっとも手ごわい部下は戦闘でもっとも弱い者の場合がある。無垢な第三者や悪漢の陰謀を知らずに手を貸す愚か者は善属性のキャラクターにとって手ごわいものとなる。たとえば、若輩であったり朴訥なパラディンは真の邪悪である悪漢の巧みな虚言や悪漢が「異端的な」や「堕落した」と烙印を押した人々を殺害したり拷問せよという指示に欺かれ、道を誤るかもしれない。パーティはこのパラディンを殺すべきか？ 通常、それは否である。しかし彼が信念に従い、武器をたずさえて鎧を着込み、それか“正しい”ことであると信じているなら説得は難しいことになるだろう。
部下はほとんどの場合、ゲームで繰り広げられる物語の脇役でなければならない。しかしその何人かは名無しではないが見えない存在である。たとえば、何人かの部下は冒険者の定宿に使用人として潜入しているかもしれない。他にも火山にある悪漢の隠れ家を歩き回る文字通り不可視状態のクリーチャーかもしれない。しかし彼らが弱いからといってパーティの計画に大きな危害を与えられないわけではない。
戦闘での部下に関する僕の個人的なルールに、1、2回も命中すれば倒れるというものがある。これより体力があるものは、雑兵ではない。彼らは強い悪漢の側近か下士官である。高レベル・パーティは、1回か2回の命中でオーガやヒル・ジャイアントでさえ倒しかねないので、君はよく考え、部下の大きさも調整するように！
戦闘で、部下は恐ろしく、強い悪漢にまったくもって魅了されているか支配されており、彼の命令で何でもするようでなければならない。偉大なる首領が右で彼らを見ているときにPCが部下を説得できて凶行を止めさせるようではいけない。教祖と宗教的な部下の場合、彼らはまことに邪悪な者の命を救うために嬉々としてみずからを犠牲として捧げかねない(トゥルサ・ドゥーム(訳注:ロバート・E・ハワードの小説、カル王シリーズの敵役)の部下のように、それが服従の証でさえあるかもしれない)。これは部下が倒されても倒されても死をみまう一撃の前に身を投げ出すという、素晴らしく気味が悪い場面を演出できる。この機能は、君が彼らをシールド・ガーディアンのように扱えるということでもある。このような演出は、プレイヤーに彼らの偉大な悪の首領に近づけることを拒む何十人もの部下を倒して死骸の山を築くのは骨が折れるという 強い印象を与えることができる。良い部下は盾の役割を果たさなければならない。たとえ彼らがPCに脅されても、彼らは強い悪漢により強く支配されている。結局、彼は自らの支持者を長年にわたり脅し、虐待し、そしておびえさせてきた。冒険者は新参者である。
部下がけして行なってはならない唯一のことは、彼らの邪悪なあるじを出し抜くことだ。知性や野心が増大しすぎた部下をあるじの悪漢が粛清することはよくある。このルールの刃先にはひとつの道がある。あるじである悪漢が死ぬことで、主要な部下のひとりがあるじの計画を乗っ取って再開しようとするかもしれない。それは、君のキャンペーンに登場する新しい悪漢の素晴らしい誕生物語になる。デス・ナイトがそれを取り落としたちょうどその下でゴブリンか別の部下がロッド・オヴ・ロードリィ・マイトをつかみ取る……
部下は彼らがまぬけどうかに関わらず、陰謀、朴訥、大声、危険など、さまざまな楽しみを提供できる。彼らは常に強い悪漢をより強く、より危険に、そして少なくともより恐ろしく見えるよう動かなければならない。部下たちの道化ぶりを強調するか、彼らを刈り取られる肉袋にするか――彼らの方向性は君しだいである。
ウォルフガング・バウアーは今も執念深くかつ入念な復讐を企んでいる。彼の脱出路はオープン・デザインに関する一連のブログとして、巧妙に偽装されている。