ダンジョンズ&ドラゴンズ購入ガイド2022
2022年12月16日、ウィザーズ・オブ・ザ・コースト(ウィザーズ)からダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)第5版が発売される。
『スターターセット』、『デラックス・プレイ・ボックス』、『プレイヤーズ・ハンドブック』等、様々な製品が同時に発売され、目移りしてしまう以前に何を買えばいいのか戸惑っている人も多いだろう。
この記事はそんなあなたのために、何を買うべきか、そしてどう次へ進んでいけばいいのかを解説するものである。
まずは『スターターセット』から
D&Dを遊ぶのは初めてだという方は、ぜひ『スターターセット』から触れてほしい。このブルー・ドラゴンと戦う冒険者が描かれた箱の中には、プレイヤー用のルールブックに5人分の作成済みキャラクター、ダンジョン・マスター(DM)用のアドベンチャー(他のTRPGでいうシナリオ)「竜たちの島ストームレック」そして各種ダイスも一揃い入っている。
『スターターセット』は誰かがDMになるならすぐにでも遊べるようになっているのが特徴だ。
DM、つまりゲームの進行役をやるのは若干の勇気がいることだが、付属している「竜たちの島ストームレック」は初めてDMをする人への気遣いが行き届いている。慣れないことへの心配や全滅への心配などのトラブルをケアし、プレイヤーと一緒にゲームを始めてステップアップできるよう作られたアドベンチャーなのだ。
また、作成済みキャラクターにはそれぞれストームレックを訪れる動機や、そこでなすべき目的があらかじめ設定されている。これは「竜たちの島ストームレック」を進める上でダイスをロールする以外の、キャラクターが冒険を続ける動機付けなどと密接に関わっている。つまり、これらのキャラクターを使うことでアドベンチャーの中で語られる物語へ積極的に絡んでいけるのだ。
アドベンチャーも数時間もあれば一区切りつくように設計されているものが4つ入っている。週に1回セッションをして1回で1本終わらせても、1ヶ月くらいは遊べる。
このように至れり尽くせりの内容が2200円なので、まずD&Dに触れてみたいという方には『スターターセット』を買ってくださいと手放しでおすすめできる。
『デラックス・プレイ・ボックス』という選択
あなたにある程度TRPGの経験があり、プレイヤーさえいればDMはできると思っているなら、『デラックス・プレイ・ボックス』もおすすめだ。
こちらの構成はルールブックとアドベンチャー「アイススパイア山の竜」、未記入のキャラクター・シート、判定や状態の解説が書かれたついたてであるマスタースクリーン、村の住人などDMが扱うノンプレイヤー・キャラクター(NPC)を描いた絵、魔法のアイテム、クエストの内容などを記したカードと入れ物、冒険する地域の地図、そしてダイスが一揃いだ。
『スターターセット』との大きな違いはひとつ、このセットには作成済みキャラクターがおらず、参加者はプレイヤー用のルールブックを読みながらキャラクターを作成する必要がある。ある程度D&Dの経験があるならと前置きしたのは、こういう作業が必要だからだ。
なお、選べる種族とクラスはエルフ、ドワーフ、ハーフリング、ヒューマンの4種族と、ウィザード、クレリック、バード、ファイター、ローグの5クラスである。
ルールブックにはプレイヤーが足りないときのために、パーティに同行してくれるNPCを使うルールもある。このため、お子さんとプレイヤー1人、DM1人でD&Dに挑戦してみたい親御さんなどにも嬉しい仕様になっている。
付属しているアドベンチャー「アイススパイア山の竜」は、拠点の町ファンドリンで噂を聞いて依頼を受け冒険へ行き、帰ってきたらまた別の仕事へ行き、その積み重ねが思わぬ大仕事になるトラディショナルな職業冒険者もので、異世界小説を読んでいる人にも親しみやすい内容ではないだろうか。ボリュームも「竜たちの島ストームレック」の三倍ほどあり、そこもデラックスだ。
ある程度レベルがあるキャラクターへの対応も書かれているので、『スターターセット』を遊んでゲームに慣れたら、そのキャラクターで引き続きプレイするのも一興だ。
ダイスは買っておこう
『スターターセット』や『デラックス・プレイ・ボックス』にも入っているが、D&Dは全員がダイスを一揃い持っているとゲームがサクサク進む。
D&Dでは20面体、12面体、10面体、8面体、6面体、4面体のダイスを使う。ホビーショップや通販で手に入れておくといい。
スタートから、その先へ
さて、『スターターセット』か『デラックス・プレイ・ボックス』、あるいはその両方を買っていくらか遊んだあなたは、また次に何を買えばいいか考える時が訪れるだろう。ここからはその先の話をしよう。
プレイヤーズ・ハンドブック
『プレイヤーズ・ハンドブック』(『PHB』)は、D&Dのキャラクター作成に必要な種族、クラス、装備、呪文など、さまざまなデータが詰まっている本だ。これまで見てきたものでいえば、『デラックス・プレイ・ボックス』に入っているルールブックの完全版である。
マルチクラスや特技といったキャラクターをカスタマイズするためのルールも追加されるため、DMが認めるならそれらを使うことができる。
あなたがプレイヤーであるなら、とりあえずこれを買っておけば間違いはない。
あなたがDMなら優先度はそんなに高くないが、後述する『モンスター・マニュアル』に掲載されているクリーチャーやNPCが使う呪文は『PHB』を参照するようになっているので、それを買ったなら一緒に持っていると安心だ。
ダンジョン・マスターズ・ガイド
読んで字のごとく、DMをする上で役立つ種々雑多な情報が詰まった本。それが『ダンジョン・マスターズ・ガイド』(『DMG』)である。
といっても、敵や罠のデータがカタログのように掲載されていて、それを組み合わせてキャラクターが挑むダンジョンを作るような本ではない。ゲームの舞台になる地域を設定するための勘所、多元宇宙のさまざまな世界の断片的な情報、アドベンチャーの構造解説、魅力的なNPCの作り方、陸海空を旅する手段や脅威、キャラクターが冒険の合間に行なえそうなことの一覧など、一見散漫にも見えるほど多くのノウハウが詰め込まれているのが『DMG』だ。
もちろん罠や障害の例やその自作ガイド、レベルを基準にした戦闘の目安は載っている。しかし、それらを貫く背骨はDMがいかにプレイヤーと一緒にゲームを盛り上げ、運営していくかについての話だ。それを受け取ってアドベンチャーやデータを準備したり、プレイヤーの提案を拾えたりしたのなら、あなたは立派な熟練のDMである。
また、『DMG』には数多くの魔法のアイテムが掲載されており、来歴などのフレーバーの表も充実している。キャラクターへ渡す戦利品や報酬として活用してほしい。
モンスター・マニュアル
冒険を彩る影の主役、ゴブリンやコボルドからドラゴンやクラーケンまで、あまたのモンスターを網羅した幻獣図鑑、それが『モンスター・マニュアル』(『MM』)だ。
この本では多くのモンスターが挿絵と生態や伝承のような解説つきで紹介されている。もちろん、キャラクターが対峙する存在として使えるようにステータス付きで、だ。
実のところD&Dでは、キャラクターたちの冒険する世界がどんな世界かを特に説明しない。『PHB』、『DMG』、『MM』ではフォーゴトン・レルムという世界を基準にして種族やクラス、魔法のアイテムやモンスターについて解説しているが、多くは断片的な情報にとどまっている。そのため、それらの漠然としたものから自分たちの世界を組み上げていく必要があるのだが、モンスターの生態や伝承はそれを大いに助けてくれる。街の近くに火山があるなら、それを好むレッド・ドラゴンがいるかもしれないし、同じような場所を縄張りにするファイアー・ジャイアントと覇権を争っているかもしれない。そういう情報同士をつなぎ合わせ、世界を紡ぐのも楽しいものだ。
そういうことを抜きにしてもアドベンチャーを自作したいDMにとって本書は心強い一冊になるだろう。何かしらの理由をつけてモンスターと戦うだけでもちょっと遊ぶには十分だ。
また、モンスターだけではなく野生動物や一般人や山賊、暗殺者などのNPCのステータスも例示されているので、あなたのファンタジー世界の風景をより豊潤なものにしてくれること間違いなしである。
結局どれを買えばいいのだろう
さて、これらのルールブックを買う順番と買う担当者だが、プレイヤーをやるなら『PHB』で十分だ。DMが魔法のアイテムを自由に買っていいというなら『DMG』があると便利だし、モンスターをお供にする能力があるなら『MM』があれば助かるが、絶対ではない。
DMの場合、『スターターセット』か『デラックス・プレイ・ボックス』を持っているなら、ある程度はモンスターのデータを使い回せるので、参考書として『DMG』を買い、魔法のアイテムなども導入したり、参加者が楽しめそうな選択ルールを提案してみたりして自分たちにとって過ごしやすい環境を作りながら、『MM』を買うのがいい。
金銭的に一度に買うのが難しいなら、プレイヤーは『PHB』を買い、DMが『DMG』、お金に余裕のある人が『MM』など、プレイグループで分担して買い、回し読みするのもいい。
DMをしていてもキャラクターのデータをすべて把握している必要はないので、キャラクターの能力について疑問があれば担当プレイヤーに都度訊ねるなどすれば、DMが『PHB』を購入するのはある程度先まで保留できる。
サプリメントはいかが?
さて、D&Dのルールブックはこれ以外にもまだ存在する。それが『ザナサーの百科全書』という追加ルール集、サプリメントだ。
これは決して必須の本ではないが、クラス毎に特徴ある演出の提案や追加の成長オプション、追加の呪文、追加の魔法アイテム、生い立ちを決めるための膨大な表、DMへのアドバイス集など、魅力的な追加ルールが多数収録されている。ある程度ゲームに慣れてから手に取ってみるのもいいだろう。
かつての遺産
今回(2022年12月)発売されるD&D第5版はウィザーズからであるが、日本ではかつてホビージャパンが製品展開をしており、その頃のアイテムもまだ流通在庫として残っている。ここではそれも少し紹介しよう。
ベーシック・ルール
ホビージャパンのD&D日本語版サイト(http://hobbyjapan.co.jp/dd/)からダウンロードできる抜粋版ルール。プレイヤー用とDM用があり、『デラックス・プレイ・ボックス』のルールブックと同じくらいのボリュームがある。
プレイヤーとしてはこれだけで基本的なクラスを20レベルまでプレイできるため、お試しというにはあまりにも豪華。ホビージャパンのサイトがいつ消えるかわからないので、入手できるうちにしたほうがよいだろう。
魂を喰らう墓
フォーゴトン・レルムの一地方、南国チャルトを舞台に、全世界を震撼させている魂を蝕む災厄と対峙するアドベンチャー。ジャングルに覆われた地方全体を股に掛けた冒険と、創意工夫にあふれたダンジョンの両方を味わえる贅沢なつくりだ。
また、チャルトの入口であるナイアンザル港などは詳しいデータが載っているため、地方ガイドとしても使える。
ソード・コースト冒険者ガイド
『デラックス・プレイ・ボックス』のアドベンチャー、「アイススパイア山の竜」の舞台にもなっているソード・コースト地方、ひいてはフォーゴトン・レルムの世界を解説したガイドブック。
ウィザーズ版では世界を解説するサプリメントがまだ出ていないため、ある程度整備された既存の世界を舞台にアドベンチャーを自作したり、キャラクターの設定を作ったりしたい人に向いている。
大口亭綺譚
ウォーターディープ ドラゴン金貨を追え
フォーゴトン・レルム最大の都市ウォーターディープを舞台に、さまざまな陰謀と戦うアドベンチャー。都市を舞台にしているため、それぞれの冒険の合間にはのんびりとした日常パートを演出するのも面白い。
ウォーターディープの詳細な都市ガイドも兼ねているため、ここを舞台にしたアドベンチャーを自作する助けにもなる。
ウォーターディープ 狂える魔道士の迷宮
ヴォーロのモンスター見聞録
『MM』の内容を拡張するさまざまなモンスター種族の設定集に、新規モンスターのデータも載っているモンスターの本。
同じようなサプリメントはウィザーズ体制でも翻訳されるはずだが、今使いたいモンスターを増やしたい人にはこれ。
モルデンカイネンの敵対者大全
D&Dの世界はさまざまな異世界がつながりあった多元宇宙である。その多元宇宙に住まうさまざまな種族の設定や、デヴィルやデーモンといった悪の存在と名前を持つ有名デヴィル、デーモンについての解説がされているサプリメント。収録されているモンスターのレベルは高めだ。
これも後継にあたるサプリメントはウィザーズから翻訳されるはずだ。
バルダーズ・ゲート:地獄の戦場アヴェルヌス
フォーゴトン・レルムの犯罪都市バルダーズ・ゲートで悪の陰謀を追ううちに、キャラクターたちは異次元へ渡り、永遠の戦場を駆け巡ることになるアドベンチャー。壮大な設定と、正義とは何かを問われるロールプレイのしがいがあるテーマが同居している。
バルダーズ・ゲートの都市ガイドにも多くのページが割かれているので、猥雑な犯罪都市をキャラクターの拠点として描写したいDMにもおすすめ。
エベロン冒険者ガイド 最終戦争を越えて
いままで色々と紹介してきたフォーゴトン・レルムとは異なる、地球でいう近代ほどの文明を持つ世界、エベロンを舞台にD&Dで遊ぶための世界設定ガイド。SFに出てくるアーコロジーのような積層都市シャーン、世界を裏から支配する血統ドラゴンマーク氏族、異世界からの侵略者と戦うオークなど、これまでのD&Dとは毛色の違った世界があなたを待っている。
何らかの明確な世界を舞台に冒険したいプレイグループにはあって困らないものだろう。
むすびに
長くなってしまったが、これでこの記事は終わりである。
繰り返しになるが、ふたつ発売されるボックスセットのどちらを買うかについては、あなたがTRPGやD&Dに初めて触れるなら『スターターセット』、D&Dをすでに知っていてDMに挑戦したいなら『デラックス・プレイ・ボックス』を買っていただきたい。
このあたりは公式サイトでも両方が初心者用ボックスセットとして紹介されているが、明らかに製品としてのねらいが異なるため、今回の紹介では特に念押ししておきたい。
今後の製品展開だが、ヨーロッパの諸言語バージョンの動きを見るに、年に数冊のペースで新しい製品が発売されるはずだ。もしまたどこか記事を書く機会があれば、そういうところを増補していきたい。
出典
この文書は2022年12月発行予定の同人誌5e Zine vol.04に寄稿予定のものを加筆、修正したものである。