ダンジョンズ&ドラゴンズ購入ガイド2024
2022年の12月にダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)第5版がウィザーズ・オブ・ザ・コースト(ウィザーズ)から発売され、そろそろ1年が経とうとしています。
この1年でさまざまな新製品が発売されました。これからもそうあってほしいものです。 ですが、色々な製品が多くあるのは買う側としては目移りしてしまうものですし、一度に全部買うのもなかなか難儀な話です。この記事はそんな方のための道しるべになるものです。
全員が初めてなら『スターターセット』
D&Dを遊ぶのは初めてという方で、一緒に遊ぶ友達が数名(2~5人程度)いるなら、『スターターセット』がおすすめです。青いドラゴンと、それと戦う冒険者が描かれた箱の製品です。
この中には、5人の作成済みキャラクターと簡易版ルールブック、ダンジョン・マスター(DM)が読んで進行するためのアドベンチャー「竜たちの島ストームレック」、そしてダイスが一揃い入っています。
プレイヤーは作成済みキャラクターの中からそれぞれ1人を選ぶだけで準備完了です。キャラクターを作成する手間はありません(自分のキャラクターを作るのが楽しみだったという方にはごめんなさい)。
DMになってゲームの進行役を務めるのは少し勇気がいりますが、「竜たちの島ストームレック」は初めてのDM向けにかなり親切な書き方をしています。おおむね話の進行通りに読んでいくだけでプレイできるでしょう。
アドベンチャーは数時間もあれば区切りのつく短編の連作でひとつの長い物語(これをキャンペーンといいます)になるものなので、数回に分けて遊ぶのに適していますし、ネットを介してチャットなどで遊ぶのにも向いているでしょう。
DM志望のあなたには『デラックス・プレイ・ボックス』
あなたにある程度TRPGの経験があり、プレイヤーがいればDMはできると思っているなら、『デラックス・プレイ・ボックス』もおすすめです。
こちらの構成はルールブックとアドベンチャー「アイススパイア山の竜」、未記入のキャラクター・シート、判定や状態の解説が書かれたついたてのマスタースクリーン、村の人々などDMが扱うノンプレイヤー・キャラクター(NPC)を描いた絵、魔法のアイテム、クエストの内容などを記したカードと入れ物、冒険する地域の地図、そしてダイス一揃いです。
作成済みキャラクターはおらず、参加者はプレイヤー用のルールブックを読みながらキャラクターを作成する必要があります。これが『スターターセット』との大きな違いです。「TRPGの経験があり」と前置きしたのはこういうところが理由です。誰かしらキャラクター作成の説明をする人がいた方がいいでしょう。
なお、選べる種族とクラスはエルフ、ドワーフ、ハーフリング、ヒューマンの4種族と、ウィザード、クレリック、バード、ファイター、ローグの5クラスです。
ルールブックにはプレイヤーが足りないときのために、パーティに同行してくれるNPCを使うルールも入っています。このため、お子さんとプレイヤー1人、DM1人でD&Dに挑戦してみたい親御さんなどにも嬉しい仕様です。
付属しているアドベンチャー「アイススパイア山の竜」は、拠点の町ファンドリンで依頼を受けて冒険へ行き、帰ってきたらまた別の仕事へ行き、その積み重ねが思わぬ大仕事になるトラディショナルな職業冒険者ものです。ファンタジー小説や異世界ものの小説を読んでいる人にも親しみやすい内容ではないでしょうか。ボリュームも「竜たちの島ストームレック」の3倍ほどあり、長く楽しめます。
ある程度レベルがあるキャラクターへの対応も書かれているので、『スターターセット』を遊んでゲームに慣れたら、そのキャラクターで引き続きプレイするのも一興です。
プレイヤー参加をするなら『プレイヤーズ・ハンドブック』
あなたがセッションに誘われるなどプレイヤーとして参加する立場で、少し値が張る物でもいいなら『プレイヤーズ・ハンドブック』(『PHB』)を買いましょう。
この本には個性豊かな種族やクラス、来歴を表現する背景、種々雑多な装備など、プレイヤーが自分のキャラクターを作るのに必要な情報やデータのほとんどと、判定や戦闘などのルールが詰まっています。
この本はオールカラーで、小説からの引用文も含めた雰囲気のある文章と、イメージを構築する手がかりになるイラストも豊富で、ゲーム的ファンタジーの資料としても一級品です。なにしろD&Dは世にあふれるゲーム的ファンタジーの原型なのですから。
ダイスも準備しよう
『スターターセット』や『デラックス・プレイ・ボックス』にも1セットは入っていますが、D&Dは全員がダイスを一揃い持っていることを前提に作られています。 D&Dでは20面体、12面体、10面体、8面体、6面体、4面体のダイスを使います。ホビーショップや通販で手に入れておきましょう。
さまざまな色や形のダイスがあるので、自分のこだわりのダイスを使えばよりゲームにのめり込めるでしょう。
また、DMが認めるならスマートフォンのアプリやGoogleの機能を使うのもいい手でしょう。
スタートの先へ
さて、かくしてゲームにデビューしたあなたの前には広大なD&Dワールドが広がっています。
その中から、まずは『PHB』と合わせて3冊でコア・ルールブックと呼ばれている基本の3冊のうち、残り2冊を紹介しましょう。
ダンジョン・マスターズ・ガイド
DMをするためのガイドブックが、『ダンジョン・マスターズ・ガイド』(『DMG』)です。 この本ではまずキャラクターたちの目の前にある街や国などから始める世界やプレイスタイルの作り方を紹介することを皮切りに、その彼方にあるD&D独特の概念が形をなす次元界についての解説から始まります。
これでお気づきの方もおられると思いますが、この本は冒険の合間の活動で何があったかを決めるルールや魔法のアイテムの詳細なデータ、敵との遭遇を決めるための指針などと同じくらいかそれ以上に、あなたが世界やゲームを自分で創造していくための手引きとなる先人の言葉が豊富に載っています。
世界の詳細な記述が載っている方がいいと思われる方には肩透かしかもしれませんが、自分でいろいろと作るのも面白いものです。
そういう本ですから、この本もゲーム的ファンタジーを創造したい人にとってもよきガイドになることでしょう。
それから、『DMG』の巻末には後述する『モンスター・マニュアル』に掲載されているモンスターを脅威度の順に並べた一覧が掲載されています。正直言って製品の設計ミスのような仕様ですが、『モンスター・マニュアル』を活用するためにとても便利なものであることに間違いはありません。
モンスター・マニュアル
『モンスター・マニュアル』(『MM』)は、読んで字のごとくD&Dの世界に存在するさまざまなモンスターを紹介した怪物図鑑です。
モンスターと一口に言っても、ゴーレムやドラゴンなどの有名な怪物から、狼やライオンなどの野生動物、彼ら独自の社会を築いているゴブリンやリザードフォークなどの人型生物、果ては一般人から大魔道士などのさまざまな職業まで、この本の扱う“モンスター”は多種多様です。まあ、PCと敵対したり味方になったりしてくれる生命体のデータが掲載されている本だと思っていただければ間違いはありません。
こうした博物学の孫の子くらいにあたる分類、陳列されたデータを眺めるのもD&Dの魅力のひとつです。
これらのモンスターは習性や伝説などを書いた文章と、その姿を描いたイラストはあなたの想像力をかき立ててくれることでしょう。
もちろんこの本もゲーム的ファンタジーの資料として大いに使えることでしょう。初期のファイナルファンタジーに出てくるモンスターの多くが当時のD&Dが出していた『MM』からの引用だったというのは有名な話です。
コア・ルールブックを買う順番
『DMG』と『MM』ですが、これらはプレイの指針になるさまざまな記事とモンスターのデータの両輪でDMをサポートするために作られたルールブックです。そのため両方あるにこしたことはありません。
しかし、合わせて11000円になるのでこの種の買い物としては高額です。
ですので、もしあなたが『デラックス・プレイ・ボックス』を持っているなら、それのルールブックに掲載されているモンスターや魔法のアイテムを眺めてみて、もっとモンスターを見たいと思ったら『MM』を先に、もっと魔法のアイテムを見たいと思ったら『DMG』を買うのがよいでしょう。
また、キャラクターが魔法のアイテムを買ったり作成したりすることをDMが許可するなら、プレイヤーも『DMG』を持つと効率がよくなるでしょう。
サプリメントこと追加ルール集
さて、D&Dのルールブックはコア・ルールブックがすべてではありません。サプリメントや略してサプリと呼ばれる追加ルール集があるのです。
現在の日本語版では『ザナサーの百科全書』、『フィズバンと竜の宝物庫』、『ターシャの万物釜』の3冊が発売されています。
これらは必須の本ではありませんが、追加の設定やキャラクターの作成に一味加えるための追加データ、新たなるモンスター、DMへのアドバイスなど、ゲームに慣れてきて新しいことを入れたくなったり、物足りなくなってしまったりした人たちにとって、とても魅力的なものです。
それでは、それぞれの本を紹介しましょう。
『ザナサーの百科全書』
追加ルール集の1冊めは、表紙にも描かれたビホルダー、ザナサーの名前を冠した『ザナサーの百科全書』です。
この本ではプレイヤー向けには新しいウィザードの学派や新しいファイターの類型など、追加の成長オプションや新しい呪文といったデータの他、生い立ちや名前を決めるための膨大な表など雰囲気を得るためのものも提供されています。
DMに向けた追加要素としては、ルールを裁定する時の指針となる記事や、罠や“冒険の合間”のルールの新しい運用法、さまざまなシチュエーションに沿ったランダム遭遇の表、新しい魔法のアイテムと、こちらも盛りだくさんです。
なかでも魔法のアイテムにはコモンという分類が新設され、伸び縮みする釣り竿や水に入れても消えないろうそくなど、生活が少し豊かになる程度のアイテムが大量に追加されています。これは好きな人にはたまらない要素でしょう。
『フィズバンと竜の宝物庫』
ドラゴンランス世界の魔法使いフィズバンの名を冠し、とにかくドラゴンのことにフィーチャーしたのが2冊目の追加ルール集、『フィズバンと竜の宝物庫』です。
この本はドラゴンはどんな習性や精神性を持っているかを解説した動物図鑑のような内容が多くを占めています。これは雰囲気を重視する人には嬉しい読み物でしょう。
ゲームに関連したものでは、ドラゴンをどう扱えば印象深くなるのかのアドバイス、住処や宝の山を決める参考になる資料、そしてバハムートやティアマトをはじめとした膨大なドラゴン関係のモンスターなど、DM向けのものが多めです。
プレイヤー向けには、ドラゴンに関係したキャラクター用データ、呪文、そしてこちらはDMの領分ともかぶりますが、ドラゴンに関連した魔法のアイテムがあります。
『ターシャの万物釜』
ターシャズ・ヒディアス・ラフターの考案者として名高い魔女王ターシャが表紙に描かれたのが3冊目の追加ルール集『ターシャの万物釜』です。
この本にはまず、プレイヤー向けの追加要素が大量に準備されています。魔法の道具を使って戦うまったく新しいクラス、アーティフィサー、そして『PHB』の既存クラスをより使いやすく進化させる追加のクラス特徴があります。
もちろん、新たなクレリックの領域やドルイドの円環などの各種クラス用データ。パーティ全員を同じ組織に所属させるパーティ・パトロン。さらに特技、呪文、魔法のアイテムも盛りだくさんです。すべて導入すると、D&D第5.25版くらいの変化したゲームが生まれます。
もちろん、一度に全部導入すると大変なので、混乱しない範囲で使っていきましょう。あなたがプレイヤーの場合、どこまで使っていいかDMに訊ねるのも忘れないでおきましょう。
DM用の追加要素もあります。目を引くのは、セッションの前にゲームの雰囲気をすり合わせて共通認識を作るための打ち合わせ、セッション・ゼロの提案です。「ゲームの外」についての踏み込んだ話はD&Dでは珍しいことで、新時代の到来を感じさせます。
その他には少人数でゲームをプレイする時に使える助っ人NPCサイドキックの作り方や、モンスターとの交渉ルール、さまざまな神秘的シチュエーション、ゲーム内で使える謎かけやパズル集といった変わり種まで、かゆいところに手が届くルールが色々と入っています。
アドベンチャー
D&Dをプレイする上で欠かせないのがアドベンチャーです。キャラクターたちがどんな状況にあり、何と遭遇し、どんな反応があるのかを情景描写とデータの両面から書いたシナリオです。
日本語版では3冊出ていて、さらに1冊が出版予定です。それをご紹介しましょう。
『ウィッチライトの彼方へ』
街にやってきたサーカスに導かれたキャラクターたちが妖精郷フェイワイルドへ赴く冒険行。それが『ウィッチライトの彼方へ』で、旅を始めたら1~8レベルまで成長する可能性がある、なかなか長いキャンペーン(連続した物語)です。
世界を支配する魔女の敷いた掟により争いが抑えられた妖精郷では、機知により戦闘を回避できる場面も多く、会話でゲームを進行していくTRPGならではの楽しみを多く味わえることでしょう。
この冒険ならではの背景と、小さな妖精フェアリー、兎人間ヘアレンゴンをプレイするためのデータも入っています。
『レイディアント・シタデル:光の城塞より』
さまざまな世界の結節点になっているエーテル界の城塞都市、レイディアント・シタデル。キャラクターたちはそこの住民になり、そこから向かえる多種多様な世界で冒険を体験することになるのが、この『レイディアント・シタデル:光の城塞より』です。
非ヨーロッパ系ファンタジーを指向したこのアドベンチャーは、それぞれ雰囲気を異にした15の世界へとおもむき、その地ならではの事件に向き合うことになります。
1~14レベルまでに対応した13のアドベンチャーが収録されていますが、それぞれは独立した内容で、それだけで遊ぶことが可能です。もちろん、レイディアント・シタデルからさまざまな世界を旅できるので、同じキャラクターですべての冒険に参加することもできます。ですので、使いたいキャラクターをその都度作ったり、お気に入りのキャラクターを使い回したりと、プレイグループで好きに遊べるのが特徴になっています。
『ドラゴンランス:女王竜の暗き翼』
D&Dを元にしたファンタジー小説シリーズ、ドラゴンランスをD&Dで遊べるようにしたアドベンチャーです。舞台になるのはにわかに戦乱の暗雲が巻き起こったクリン世界のアンサロン大陸。不思議なきざしに導かれたキャラクターたちは、小説では語られなかったもうひとつの竜槍戦争を戦うことになります。
この本は最初にクリンやアンサロン大陸について軽い説明があるので、原作を読んでいない方でも遊べるようになっています。もちろん、ゲーム中には原作の登場人物も出てくるので、原作読者だと、彼らとの邂逅を楽しみにすることもできるでしょう。
アドベンチャーの部分は1~10レベルまでのキャンペーンで、クリン世界独自のソラムニア騎士や上位魔法の塔などに関わるデータも少々ついています。
『ゴールデン・ヴォールト:黄金鍵の密命』
先日行なわれたウィザーズのアンケートにちらりと名前が出てきたのがこのタイトルです。出るものだろうとして紹介すると、これは“盗み”をテーマにした13の短編アドベンチャーが収録されたもので、1~11レベルまでに対応しています。
これも『レイディアント・シタデル:光の城塞より』と同じオムニバスのアドベンチャーですが、キャラクターたちに依頼を出すゴールデン・ヴォールトなる組織やライバルを使うことで、連続性のある遊び方への指針もあります。
また、この中には映画D&Dに出てきたレベルズ・エンドに挑戦するアドベンチャーも収録されています。