ここにシナリオの導入がふたつある。これを比べてみよう。
「君は酒場にいた男から、町外れにある洞窟の話を聞いた」
「野営中、君が真夜中の見張りに立っていると、矢文が飛んできた。それにはエルフ語で何か書かれている」
ひとつめは時代遅れな手法で、プレイヤーの興味を引くのも難しいだろう。もう一方は、矢文に書かれている内容が脅迫だろうが、交渉の申し出だろうが、同盟の申し出だろうが、何であれ彼らはその内容に対して疑問を持ち、すぐに行動と冒険を始めるだろう。
冒険の導入で大事なのは、どんな行動を始めるか、どうやってプレイヤーをゲームに没入させるかということだ。創作の世界ではこれを「誘引」と呼ぶ。君のシナリオに強い導入が無い場合、プレイヤーは「どこに今週の冒険があるんだい?」と困惑するだろう。協力な導入をすれば、PCは好奇心旺盛に行動の計画を立て、君と協力してゲームを積極的に進めようとしてくれるだろう。弱い導入は、君が「ここに冒険があるよ」と露骨に助言しなければならなくなる。
どんな魚でも釣れるルアーが無いように、完全無欠な導入方法も存在しない。様々な魚を釣るためにフライ、ジグ、ワームなどを使い分けるように、グループやプレイヤーによって、報酬と動機を使い分ける必要がある。
ここでは6つの一般的な動機を、NPCの台詞と導入例で示そうと思う。
一番巧い導入は、パラディンに聖剣の存在をほのめかしたり、ウォーロックに失われた古代の妖術を学べる機会をちらつかせる、もしくはクレリックが大司教に目をかけられる機会を得るなど、キャラクターとの結びつきが強いものだ。プレイヤーがキャラクターの友人や師匠、家族について設定しているなら、君はそれを強力な導入にすることができる――最も身近で親密な人に、危機が迫るのだ。そう、無情にも――パーティが手をこまねいていると凄まじい災難が降りかかるような。
導入はプレイヤーが望みそうなものを用意する必要がある。君のテーブルで遊んでいるパーティのリーダーがハーフリングのローグだった場合、「欲望」は正しいものになるだろうし、リーダーがパラディンの場合、高貴な探索と「英雄的行動」を、という具合だ。プレイヤーがどんな導入が欲しいのか分からない場合、訊ねてみよう。その答えは、君を幸せにするだろう。
また、君は導入をまとめて、プレイヤー数人の動機を満たすこともできる。君はパラディンと貪欲なハーフリングのローグがリーダーである場合、「君は悪の寺院を破壊して死者の安息を取り戻さねばならない――また、そこの宝物庫には莫大な財宝が隠されているという噂がある」という具合にだ。
すぐ使える導入が欲しくはないかい? それならSteal This Hookシリーズを使って欲しい。フォーゴトン・レルム、エベロン、そしてd20モダンで使えるシナリオへの導入を提供している。
君は導入が、具体的には拒絶し辛い導入が欲しいはずだ。あいまいなもの、使われすぎたもの、そして決まりきったものはプレイヤーが興味を持たない。抗しがたいものとしては、姫君や子どもが誘拐されるといったものがある。
しばしば成功する導入は、パーティが見返りを必要としない種類のものになる。そんな時、依頼主にはキャラクターの能力や力、または技術を褒めさせよう――大げさなくらいに。いくらかのNPCは、レベルがどんなに低くとも、危急存亡の秋を救ってくれたPCのことを敬意を込めて英雄と呼ぶだろう。そして、彼らの願いを叶えたり、売り込むことにより、彼らはPCが頼りになる得がたい味方であるという太鼓判を押してくれるようになる。たとえば、家長の友人を助けるため、商人が多少の無理な注文を聞いてくれる。といった具合にだ。
二番目に提示したこれらの導入は、繊細なファンタジーを駄目にする見えすいた言い訳をせず、具体的な目標にもさらなる探索へ繋がる謎にも利用できる。人はより強く大きな欲望や注目、栄誉を勝ち得る機会のためとあらば、助けを求める声に忠実だ。彼らは繰り返し訪れる悪い状況と、手当たり次第に襲い掛かる死線をかいくぐるだろう。
最初の導入が、必ずしも最後の導入であるとは限らない。実際、最初の導入はただ単に行動を開始させるだけという場合もありうる。シナリオが始まると、PCたちはちょっと墳墓を探索するはずが、新しい脅威を解き放って生き残らねばならないと気付くかもしれない。ドワーフの商隊たちを鉱山から鋳造所まで護送する仕事の途中に鋳造所が襲われて族長がジャイアントに殺されたと知れたら、そこから報復のための戦いが始まる。
なぜ僕がシナリオそのものをひねらずに、多くの導入を用意するかわかるかい? これは、パーティがひとつ目の導入を無視したとき、ふたつ目の導入を利用できるからだ。もしプレイヤーが「おお、では私の部下に送らせましょう」と言った場合、彼に族長が死んだという報せを持ち帰らせることができる――ここで新しい導入を利用できるのだ。
いくつかの導入はプレイヤーの興味を引かない。酒場の男は無視され、新しい仲間がドワーフだったためにエルフを助けようとしない。彼らは以前の冒険から手がかりを得ようとして、君の提示する安ぴか物に興味を示さない。
強制はせず、自ら向かうよう仕向けよう。
プレイヤーたちは、君が彼らを誘導していることを知っている。もし導入が良くないものだと、彼らは強引に誘導されることを怒るだろう。君が考えた導入がうまく行かないなら、パーティにはそれを無視させたほうがいい。
じゃあゲームはどうなるかって? 本当にPCたちに君が考えたシナリオを遊んで欲しいなら、君はよりよい導入を考えなきゃいけない。先手を打って、プレイを楽しく続けられるよう、君に余裕があるなら既存の悪人を使うなり、A地点からB地点まで旅するなりの、単純なシナリオを始めよう。プレイヤーは本筋へ戻る途中で手がかりや宝を手に入れ――ことによると、長い脇道へ逸れていたことにすら気付かないだろう。また、君はどういう導入が興味を引くか学習し――来週のセッションに備えることができる。
導入の成否を決めるものに、君がそれをどう提示するかがある。へっぽこ役者になれ。君の裡にあるサーカスの役者魂を覚醒させるのだ。いつも喋ってる調子で文章を読むな、より低い声や、乱暴なドワーフの口調を真似してみよう。そして、駄菓子売り場で売ってる金貨型のチョコレートを取り出したりして、ちょっとした身振りをつけるんだ。プレイヤーは君の熱意に胸を打たれ、やる気を振るわせるだろう。
シナリオにはいくつかの導入を用意しておこう。そして、プレイヤーがどんなことに惹かれるのか知ることは、行動の開始にあたって強力な動機を作って集中力の維持を助けることになる。
ウォルフガング・バウアーは多くのシナリオをものしたライターで、Dungeon Magazineに『Kingdom of the Ghouls』や『Gathering of Winds』といったシナリオを投稿し、ウィザーズ・オヴ・ザ・コーストからも近日発売予定がある。彼はオープン・デザイン・ブログでシナリオの改造法や専門家の目から見た助言などを支援者に提供している。