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カカラ谷のダンジョン

著:ジェームズ・ワイアット

前回、私は私と……そう、君が初めての第4版キャンペーンで序盤に使う地域を作ってみた。私はカカラという困難に直面した村を作り、近くにいくつか冒険の題材になりそうな場所を配置した。塔見の町、苦しみ峠、そしてカカラ谷。私はカカラ谷が始まりのダンジョンだと決めたので、今月はそれについて考えていくことにする。

実のところ私はまだ次にプレイする仲間と会っていない。しかし、君には仲間がD&Dのプレイで何を楽しんでいるかという良い発想の源がある。実のところ、それは私がカカラ谷に広がるダンジョンについて考える上で最初に考慮すべきことだ。もし君がプレイヤーを“殺戮者”――彼らと財宝の間に立ちふさがるあらゆるモンスターをやっつけるために職場や学校からゲームの席に集う人々――と認めるならば、君にはかなり楽なやり方がある。ちょっとダンジョンの地図を描くか見つけるかして、モンスターと財宝を書き込んでいくのだ。

プレイヤーがゲーム内での物語や社会とのかかわりを好むとすれば、私はカカラ谷にまつわる物語を少し掘り下げねばならない。それは、私がまず作ったものについていくつかのことがらを決める必要があることを意味する。

君はこの問いに対して別の視点から考えるかもしれない。なぜ谷は開いた――何者かがダンジョンへと到達するために仕組んだ――つまりは大いなる計画の一部だったのだろうか? おそらくそれは地震、否、人為的な災害だったのだろう。もしくは、外にいる何者かではなく、ダンジョンから逃げ出したい何者かが、外界へと脱出するために開いたのだ。

先月、私は谷が開いたのは近くの森が燃えたのに関連しているという考えに言及した。そういうわけでこの考えを拾い、何者かが谷をこじ開けて逃げ出したとする。カカラ谷深くにある遺跡には、何者かが強力な魔力で封印されていたのだ。永きまどろみの果てに、事件は起こった――おそらくは地震が束縛を維持するための魔法陣を破壊し、何者かを千とひととせの呪縛から解き放った。その者は、大地を断ち割り谷を作り、荒野を暴れまわり、その勢いで森を燃やした。山火事は私にそれが炎にまつわる本質を持っているかもしれないと示唆しているが、私はしばらくの間封じられていた者について考えないでおく。

私が物語的な視点で考えることが好きな理由として、封印されていたクリーチャーを追い詰め、倒すか再び封印する――というようにキャンペーンの長期的な終着点を示してくれることが挙げられる。それは彼らがエピック・レベルに達するまで考えもしないかもしれないが、私はその伏線をキャンペーンで一番最初に行う冒険にさえすることができる。このような理由から、私は悪の正体は何かという問題を私がキャンペーンの主題について良い考えが出るまで棚上げにしておくことにする。

幸運なことに、私はここ数日でひとつ良い考えをひらめいていた。私は自宅の一室から別の場所へとD&Dの本を運んでいた時、『Lords of Madness: The Book of Aberrations』を見つけたのだ。私はこの本が好きだ――これは私が第3版で手がけなかった本の中で好きなもののひとつである。私は異形が好きだ、私は狂気という主題と彼らがもたらす万物の腐敗が好きだ、そして私は彼らがゲームにラヴクラフトの雰囲気をもたらしながらも、D&Dらしさを持っているのが好きだ。

同じように私は異形と戦うための組織や上級クラスも本当に好きだ。自然に焦点を当てた――真実の円(Circle of the True)、超能力を主題とした――聖別されし精神協会(Society of the Sanctified Mind)、聖黄玉騎士団(the holy Topaz Order)、そして一匹狼な蒼き印の看視者たち(keepers of the Cerulean Sign)。異形と戦う組織は素晴らしい、本当に名前までもが……そして第4版でのキャンペーンで使うのもまことに楽で、上級クラスという特殊な仕組みを使わなくてもいい。

というわけで私はカカラ谷の奥に広がるダンジョンを異形で満たすつもりだ。だが、第4版のモンスター・マニュアルは低レベルの異形が多くはないので、私は創造力を働かせねばならない。しかし、私は谷の深いところから遺跡のもっと危険な階層へ行けるという考えを持っており、それは私がマインド・フレイヤーやアボレス、そして他の高レベルな異形を住まわせられるということである。キャラクターがパラゴン・レベルに達せば、私は異形の堕とし仔 (foulspawn)やキャリオン・クロウラーを出せるようになるが、今のところまだ異形には少し手が届かない。

これはカカラ谷が私にたくさん冒険の可能性を秘めキャンペーンで長く使えると語りかけているのだ。おそらく、キャラクターの冒険はカカラから彼らを旅立たせるだろうが、それはキャンペーンのやりがいというものだ。キャラクターは故郷を離れて大冒険を行い、強大な英雄となって故郷へと凱旋し、最初に挑んだダンジョンで新たなる脅威に直面する。それは、とても素晴らしい瞬間だろう。

では、私はキャラクターが最初の数レベルである間何をすればいいのだろう? 先ほど言ったように、創造力を働かせるのだ。モンスター・マニュアルにはコボルド、ゴブリン、そしてオークといったいつもの面々から、クルーシク(kruthiks)やニードルファング・ドレイク(needlefang drakes)まで低レベルのモンスターがたくさんいる。はたしてこの中で私に「異形だあ」と叫ばせるのはクルーシク以外いないが、全てをそう認識することもできる。たとえばカカラ谷の深淵に封印されている恐るべき異形が浅い階層まで腐敗させ、そこに棲んでいるクリーチャーをも腐敗させているとしたら。ここで私はコボルドとゴブリンを使えるようになったが、彼らはねじくれたコボルドとゴブリン、彼ら本来の姿を戯画化するかのように歪められている。 (何が異形を異形たらしめるか? 答えは多分にその姿である。)これら外見が変化したモンスターは彼らが奇妙で異質なものという印象を与えるのにうってつけで、プレイヤーにより深い場所に潜む危険な存在について手がかりを与える。いくつかの場所で、私はホブゴブリンのステータス・ブロックを修正したり、異形の堕とし仔のレベルをモンスター・マニュアルのものより下げ、山場の戦闘で主要な敵とするだろう。

これで、私は谷そのものの起源に関する物語を用意し(それは地元の伝説になるかもしれない)、キャンペーン全体に一本筋を通し、谷へ向かう最初の旅と、キャラクターがそこで対面するはずのモンスターについて考えをまとめることができた。

君のクエスト(Quest)は何だね?

私には物語の背景があり、私には殺すためのモンスターがいる。私に足りないもうひとつは実際の冒険に必要な物語である。私が言っているのは冒険での事件からなる物語――プレイヤーがプレイした冒険から書き起こすものではない。私が言いたいのはキャラクターを冒険に引き込み、彼らがやり遂げるべき少々のことがらだ。第4版で、キャラクターの目的というものはクエストという便利な仕組みとしてまとめられた。

キャラクターはなぜカカラ谷にやってきたのだろう?

これを明確にするために、私はダンジョンの住人が村はずれの農園を荒らしていただとか、商隊を襲っただのという手垢がついたものは使いたくない。そこで私は頭にふつふつと湧いたいくつか別の考え(第4版のダンジョンマスターズ・ガイドにある冒険の題材からも影響されたのである)がある。

この3つの考えが私の頭から出てきた。私は1つめと2つめについてあまり強く思うところはないが、必要ならばすべてをまとめることができる。それを試してみよう。

キャラクターのほとんどか全員は成人の儀式を目前に控えている。村人の間では不可思議な力が谷から放たれているようなので、今年の儀式を行うか否かの議論がなされている。PCはおそらくこの議論に参加する。しかしパーティのあるひとり――ペイロアの狂った老神官と縁がある誰か――には更なる思惑がある。彼は儀式を行うために行くのだ。彼は他人にそれを話したくないかもしれないし、議論の重要な点になっているかもしれない。結果、とにかくPCはダンジョンへ入り、一夜を過ごし、朝になれば儀式を行い、そして全てが終わり、うまくいけば無事に戻れる。

こうしてキャラクターがダンジョンへ入る物語的理由を持たせるに至った。これは、PCがダンジョンへ入り、住人をいくらか殺し、儀式を行い、そして去るという要点を押さえている。当然ながら、それはダンジョンに棲む他の住人を怒らせることになり、彼らは村や農園を襲いにかかるだろう。こうして私はなんともはや使い古された場所へ立つこととなったが、今のPCには重大な個人的要請により襲撃を止める理由がある。襲撃は彼らの過ちによっともたらされたのだ。

ダンジョンの地図を描く

正直に告白する。私はダンジョンの地図を書くのが嫌いだ。こうして私はこの記事で繰り返し言っている、創造的剽窃という主題に戻ってくる。私はひどく幸運にも記事のために、クリス・ウェストから素晴らしい地図を描いてもらうことができた。もしこうならなかった場合、私は昔の冒険シナリオを探してくるか、 『Maps of Mystery』から基本的で簡単なつくりをしたダンジョンの地図を見つけていただろう。私はそれをコピーし、太いマーカーを走らせる。

もし君が目的にぴたりと合う地図を見つけたなら、それを使うように。だがもし君がそうできなかった場合、君がゼロから全て描くことをたったひとつの方法であると思わないように。そういうわけで私はこれを創造的剽窃と呼ぶ――私は他の目的のために描かれた地図を、いわば盗んで使うのだ。しかし私は自身の創造力を用いて自ら創造するキャンペーンの一部を織りなすように繕いをかける。

今回の場合、私はダンジョンがカカラ谷で途切れているようにするつもりだ。私はマーカーを取って長くて広い傷痕を置くにふさわしい場所を探す。傷痕が通路と部屋を貫いた谷の両側にはたくさんの洞窟へ入る入り口が残っていないといけない。これですっかり地図はこの冒険専用のものに見えてきた。

私はこうも考えた、谷もまた冒険の一部であって欲しい――私はキャラクターを単純にダンジョンへ行かせるつもりは無く、彼らが正解を見つけるまでそこに留まらせようと思った。そこで私は洞窟の入り口のいくつかが行き止まり――小部屋とどこにも通じていない通路の小さな区画であることを望んだ。それらはそこで完結した遭遇エリア(encounter areas)で、PCはその間を通りながら谷を移動しなくてはならない。私は手にもったマーカーで、ダンジョンの区画を繋ぐ通路を塞ぐ作業を始めた。それと同時に、私は将来的に部屋を拡張する余地も作っておきたい。私は地図の隅にいくつかの通路を描き、同様にいくつかの下り階段を描いた。私はさらに、もし必要ならば谷で切り離された異なる区画同士を関連付けることもできるが、より大きな遭遇エリアとして利用するときだけにとどめることとした。

遭遇エリアについてだが、私は去年『Expedition to Castle Ravenloft』という冒険シナリオに取り組んだ時、興味深いことを学んだ。君が既存の地図、特に古い冒険シナリオ(オリジナル『Ravenloft』のような)で作業しているならば、君は自らが本来の設計者と冒険シナリオ作者の思惑から離れるよう訓練しないといけない。20 フィートと30フィートの辺からなる特徴の無い部屋はあの時代だと実にほどよい遭遇エリアだったが、もはや違う。第3版におけるほとんどの遭遇と、こと第4版での遭遇は、もっと広大なエリアでプレイされる。だが、それは君が古い地図をつかえないという事ではなく――まったくの逆である。私はレイヴンロフト城で最も面白い遭遇エリアのいくつかが、3つか4つの部屋をまとめた場所だと気づいたのである。PCがひとつの部屋に飛び込んで戦いを始めると、別の部屋からモンスターを呼び寄せたり、最初の部屋にいたモンスターのいくらかは通路に撤退したり、別のドアへ回り込んだりする。複数の部屋は多くの援護、多くの動き、そして戦闘の“前線”を複数形成させる。その全てはより動的で楽しい遭遇を作る。

遭遇の作成はしかし、まだいくつかの階梯を残している。次に私は、もう少しキャンペーンに筋を通す考えを練り、そしてカカラ地方で活動しているいくつかの勢力について考えることにする。

覚え書き

これから始まる楽しい時間で触れるのはDM七つ道具のひとつ、君の頭に突然浮かんでくる考えを書き留めておくノートや電子ファイルなどである。私がこれに言及する理由は、2つ以上の考えが頭に浮かんだとき私はそれを後のために整理するからだ。私はそれをどこかに書き留めておかないと、忘れてしまう。私はひらめきを探しているとき、時々自分のノートに目を通していることと請けあおう。

私が構築しているカカラ谷周辺のキャンペーンに直結する最初の考えは、かつてあったひとつのD&D製品、90年代後半にブルース・コーデルがものした『The Gates of Firestorm Peak』に関係している。この冒険シナリオは彼方の領域をD&Dの宇宙観に取り入れ、ブルース(もしくは少なくとも彼の創作!)といえば粘体と触手だという評価を得た。これは明確に私が構築している異形の主題と調和している。要所要所で、私はこの冒険シナリオや、その翻案をキャンペーンに盛り込みたい。恐らく私はこの前描いた苦しみ峠にそれを関連づけることができるだろう。

ふたつ目の考えは私の息子が祖母の家でテレビを見ていたとき頭に入ってきた思いつきである。私は彼が本当は何を見ていたかわからないが、それはキャンペーン世界の地下で、浅い層に棲む文明化された者たちとそれとは異なるダンジョン深層の生態系について、実に良い考えを浮かばせた。その垂直的な環境の変化は私に――エベロンにある塔の街、シャーンを想起させた。私は冒険の意味が荒野を旅して辺境の遺跡へ向かうということに限定されない考えが好きである。その代わりそれは、新しい脅威が暗黒から這い上がってくるのを防ぐために君の故郷にある深淵へとふたたび降ることを意味する。これは“小さなともしび”というD&D世界設定の思想に対する急進的な帰結である。原理的に、私は街のダンジョンをカカラのキャンペーンに加えることができるが、私は周辺も使ってキャンペーン全てを構築したほうがよりよい物になると思う。そういうわけで、私は覚え書きで考えを整理することにした。

次回は、カカラ谷のキャンペーンに筋を通す!

著者について

ジェームズ・ワイアットはD&Dのリード・ストーリー・デザイナーにしてD&D第4版リード・デザイナーのひとりである。彼は7年以上ウィザーズ・オヴ・コースト社に勤め、『エベロン・ワールドガイド』『City of the Spider Queen』、そして『Oriental Adventures』といった受賞暦のある世界設定や冒険シナリオの執筆や共同執筆に携わった。彼の最も新しい仕事は『Expedition to Castle Ravenloft』『Cormyr: The Tearing of the Weave』そして、『The Forge of War』である。彼の2作目となるエベロンの小説、『Storm Dragon』は、今月発売される。

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