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時に、西暦1995年

夏の陽気が戻ってきそうな数日が過ぎ、また秋らしくなったその日の夕刻、わたしは数日前にお姉さんに教えてもらった番組が始まるのをテレビの前で待っていた。 『秋の新番組、これはおすすめだよん』

そう言って彼女が渡してくれたメモ帳の切れ端には、番組名と放送日が走り書きしてある。

始まるまでは適当に別のチャンネルでやっているニュースなどを流す。その近くで母が家事をしているので、妙に緊張感がある、

いや、そもそも後ろめたいことではないのだ。

たかがアニメ視聴なのだから。

こんなにも後ろ暗い気持ちになってしまうのは、情報を手に入れたルートが後ろめたいものなのかと考えるが、お姉さんは学校の先輩で、夏休みには一緒に旅行もした両親公認の友人である。

そもそも誰から教えてもらっても、それが家族に知られているわけではないから、別にいいではないか。

アニメ自体が子どもっぽいという意識があるせいかもしれない。

それに、わたしは自分に関わることをできるだけ隠したい。

ありていにいえば恥ずかしい。

母はわたしを気にしている様子もなく、夕食の準備などをしている。明らかにわたしの気にしすぎだ。

時計が六時半を指しつつあるので、チャンネルを変える。

黒い背景に青い波紋が広がり、赤い宇宙、青い空へと様相を変え、短い映像の連続が流れるオープニングが駆け抜ける。

そして、しばしのCMを挟んで現われたのは、水没した都市を泳ぐ怪獣。

描かれる風景が独特で魅力がある。

エンディングは洋楽っぽい曲だった。

番組が終わると、私はお姉さんのポケベルを鳴らす。ほどなくこちらの電話が鳴るので、それを自分の部屋の子機で受ける。

「この前教えてもらった番組、観ました」

「おー。どーだった? あたしも今観てたけど、よさそうでしょ」

「はい。面白かったです」

時に、西暦一九九五年一〇月四日。

今日、新世紀エヴァンゲリオンの第壱話が放送されたのであった。